「先生、それは愛だと思います。」完
文ちゃんが涙目のまま、俺を見上げた。
手で押さえている膝が血だらけになっていることに気づき、犯人に何かされたのかと思い、一気に頭に血が昇った。
しかし、今は文ちゃんを安心させることが第一だと思い、涙で濡れた彼女の頬を手で包んだ。

「痛かったか?」
「う、先生……」
「傷見せて」

俺は、文ちゃんのリュックに入っていた水で血と汚れを流して、ハンカチで膝を包んだ。
そして、神妙な面持ちのまま問いかける。

「……どういう奴だったんだ?」
怒りで声がいつも以上に低くなってしまった。
絶対に許せない。こんなに痛くて怖い思いをさせた犯人のことを考えると、怒りで手が震えてくる。
「……え、何がですか?」
しかし彼女は、きょとんとした顔でまさかの発言をした。
「え、変質者に会ったんじゃ」
「変質者!? いえ、私はただ、排水溝の蓋が欠けていることに気づかず足を取られ思い切り転んだだけですが……」
「はあ!?」
「ごめんなさい!?」
「いや違ういい、いいんだけどそれで。あー……そう、そういうことね……」

拳を額に当ててなんとか行き場の無い感情を抑えたが、あんなに焦っていた自分が恥ずかしくて仕方が無かった。
でも、タイミング的にどう考えても紛らわし過ぎる。
ただの杞憂であって良かったはずなのに、なんだかどっと疲れが押し寄せてきて、俺も道路に座りこんだ。
文ちゃんは何が起きているのか分からないという様な表情で、心配そうに俺を見つめている。
キッと睨みつけてみると、ひっと小さな声を上げて表情を強張らせることが可笑しくて、少し笑ってしまった。

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