「先生、それは愛だと思います。」完
「大きな予備校とは違って、完全に紹介制で、講師と生徒が一対二の講義らしいの。一度に講義できる人数が少ないから、紹介制にしてるんだって」
「そうなんだ、なんか凄くきっちり学べそうだね。でもほんとにお金大丈夫なの……?」
「なに言ってんの、貯金で別荘だって買えるわよ」
「絶対買わないでね」

真顔で突っ込んだが、私は予備校に通えることが心から嬉しかった。
お金を無駄にしないように、真剣に授業を受けよう……そして絶対に夏休み明けには順位を取り戻すんだ。
そう決意をしているうちに、母はスマホを取り出して誰かに電話をし始めた。
終始和やかに話をしていたが、急に母がスマホを渡してきた。突然の出来事に戸惑ったが、母が口パクで『塾のセンセイ』と言った。

「えっ、あ、初めまして文月ことりと申します! 母がいつもお世話になってます」
『君がことりちゃんか。妻からうっすら話は聞いてるよ。来週の水曜からぜひ来なさい。もう夏休みに入っているだろう?』
「い、いいんですかっ、よろしくお願いしますっ」
『文月君と同い年の男の子と一緒だが、仲良くしてやってくれ』
「はい、分かりました。当日は何卒よろしくお願いします」

なんの説明もなしにスマホを押し付けた母を少し恨んだが、優しそうな先生で本当に良かった。

「来週の水曜から来なさいだって……」
スマホを切ってから母に告げると、母はびしっと私を指差して忠告する。
「そう、よかった。すごくいい人だから、居眠りすんじゃないわよ」
「うん、私頑張るね!」

一緒に講義を受ける子がいい子だったらいいな……。
しかし、私のそんな淡い期待は、翌週見事に打ち砕かれることになる。
< 58 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop