麗しき星の花
「……??」

 リィは傾けた首を、更に傾けた。対面のシンは、まったく同じ動きを返した。それこそ、“鏡の中の自分のように”。

「……!??」

 リィの眠気は徐々に晴れてきた。違和感極まりない目の前のシンに、頭が冴えてきたのだ。

 今自分がいるのはどこだ。

 サニタリールームだ。

 何をしに来た。

 寝癖を直しに。

 どこに立っている。

 鏡の前だ。

「……え?」

 リィはペタペタと自分の頬を触った。対面のシンが同じ動きをする。

 リィはもさもさと自分の髪を触った。対面のシンが同じ動きをした。手から伝わる髪質が自分のものより硬質だった。しかも短い。横が耳に少しかかるくらいしかない。それこそ鏡の中のシンと同じ長さだ。

「え?」

 はっきりと出した声が、自分の細い声でないことに気付いた。もう少し低くて張りのある、シンの声であることに気付いた。

 鏡ではなく自分の両手を眺める。

 指や掌に豆のある手。しかしそれは、柔らかな少女の手だった。顔を上げて鏡を良く見れば、本物のシンよりも頬に丸みがあるように見える。目も本物のシンより優しげな気がする。立ち姿が頼りない気がする。

 対面にいるシンが──いや、鏡に映った“自分”が、深海色の瞳を大きく見開いて、戸惑う自分を見つめている。

「えええええー……!」

 これは驚きだ。

 目の前にいるのはシンではない。鏡に映った自分だ。

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