いつか晴れた日に
「インスタントしかなくて」

マグカップを差し出すと、黒崎くんは嬉しそうに「ありがとう」と笑う。


『怜奈ちゃん、ありがとう』

……あれ?

一瞬、マグカップを手に持つ黒崎くんと涼の映像が、重なって見えた。


「安西さん?」

「えっ?」

ハッとして顔を上げると、心配そうに覗き込んでいる黒崎くんと間近で目が合った。
濡れたような黒い瞳に、今にも泣き出しそうなわたしが映っている。

今のは何?幻覚なの?


「まだ、頭痛い?」

「……少しだけ……」

俯いて目を逸らすわたしに、黒崎くんは言葉を続ける。

「食欲ある?食べれそうなら、俺が何か作ろうか?こう見えて、料理は得意なんだ」

料理?って、冷蔵庫に何も入ってないよ。そんな女子力ゼロの冷蔵庫なんて、見られたくない。

「ちょ、黒崎さん、ダメ!!」

慌ててキッチンに行こうとする黒崎くんを止める。


「冷蔵庫は開けないで」

黒崎くんはハッとしたように振り向くと、肩を落として戻ってきた。

「……そうだよね。いきなり部屋に来て、俺、何言ってるんだろ」

「気持ちは嬉しいけど、食欲ないから。ごめんね」

「いや、俺の方こそ」

それから、気まずくなって会話が無くなってしまった。

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