最悪な出会いから
鈍感な先輩
 真っ赤なドレスに身を包んだ新婦の美耶子は、遠くから見ても幸せに包まれ光り輝いている。凛々しく、たくましい白のタキシード姿の新郎と寄り添い立っていた。その周りには可愛く微笑む小さな天使たちが祝福しているように見える。華やかな二人は招待客の皆さんをお一人お一人笑顔でお送りしていた。

「きょうは、お忙しい中をありがとうございました」
 声が聴こえる。


 二次会メンバーは……。ロビーで話しながら全ての招待客が帰られるのを待っていた。会場のスタッフが片付けを始めた頃ようやく最後の方が帰って行かれた。


 美耶子がドレスの裾を持って私たちの所まで来て
「瞳、二次会のレストラン知ってるよね。みんなを連れて行ってくれる?」

「分かった。すぐ近くだから歩いて行けるわ。じゃあ行こうか?」

「あっ、未緒は残ってくれる? 介添えをお願いしたいの」

「えぇ、いいわよ」

「じゃあ着替えて来るから、ちょっと待っててね」


 男性陣も新郎の指図で二次会の会場へ移動し始めたようだ。

 えっ? 見ると伊織君だけが残って居る。花婿の介添え?

 私の方から声が聞こえるところまで近づいて

「どうしたの?」

「翔太が残ってくれって言うから……」

「そう」

 二人だけで何となく手持ち無沙汰に待って居ると新郎が着替えて出て来た。タキシードではなく紺のスーツ姿。

「あぁ、疲れたよ」

「大丈夫か?」
 と伊織君。

「あぁ、二次会は飲むからな。緊張して飲めなかったよ」

 少しして美耶子がロイヤルブルーのミディ丈のドレスに着替えて現れた。
「お待たせしました。未緒、こちら八代伊織君。彼の一番の友人なのよ」

「えっ? うん」
 思わず伊織君の顔を見た。

「あのう……。実は、藤村さん知ってるんだ」

「えっ、何で? 知り合いなの?」
 と不思議そうな美耶子。

「会社の先輩デザイナー……」

「えっ? 未緒が? ……何で? 伊織君アパレル会社よね」

「父の会社は姉貴に任せたんだ。僕は藤村さんの居る会社に入った」

「ファッションデザイナーじゃなくてインテリアデザイナー? ってことは、伊織君の好きな先輩って……。もしかして未緒なの?」

「はぁ?」
 思わず声が出た。何の話?

「何だ。そういうこと」
 美耶子は楽しそうに笑い出した。
「未緒なのか。伊織君の気持ちに気付かない鈍感な先輩って……」

「えっ?」
 伊織君が私を好き? 何で?

「もう、翔太行こう」
 美耶子は彼の手を引いて歩き出した。

「伊織君、ちゃんと告白しなさい。未緒は、めちゃめちゃ鈍感だから、いきなり抱きしめてキスしちゃいなさい。分かった?」
 そう言って美耶子は明るい声で笑った。


 誰も居ないガラーンとしたロビーに、二人で残された。

 ホテルのスタッフだけが忙しく後片付けに動き回って居た。


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