sinner

 
わたしを強引に椅子に座らせ、間近に迫ってくるのは、元隣人の。


「会えたら、こうするって言ったはずだよ。君だって頷いた」


「って、……いつかなんて、ないと思ってた」


「言ったろ。ぼくは一途で諦めが悪くてしたたかだって。――もっと普通の出逢いかたが良かったかな? ドラマチックなほうがおちてくれるかなと計算したんだけど」


「計算って、言っちゃったら計算じゃない……」


「うん。これも計算。君にはこうしたほうが効果的かと。……それとも、あのことがあるかぎり、ぼくは一生君には添えない? どんな再びの出逢いをしても、もうぼくには……、好きになってもらえる要素はないのかな」


諦められるかはわからないけど、強引なのはここまでだ。
耳元で囁かれた。


「ゆっくりで構わない。待つのはどれだけでも。だから、今、思ってること、ちゃんと聞かせて」


「あっ……」


「今度はないかもしれない」


「いっ、意地悪……」


「知ってるかと。あ、煙草やめたんだね。こんな距離でも香らない」


< 20 / 51 >

この作品をシェア

pagetop