そこにアルのに見えないモノ

「でも、私は…」

相手がどういう人であれ…そんな気持ちにはなれない。

「待ってください。答えを急がないでください。
何の前触れもなく突然言ったのですから、戸惑って当然です。
まず、僕を知って欲しいのです。だから、少しお付き合いをして試してもらえませんか?
それも無理でしょうか」

「…でも、私は随分と恋愛からは遠ざかっています。いいえ、言い方を間違えました。寧ろ、まともな恋愛経験すらありません、それが真実です。中学生の頃の、子供の恋愛しかしたことがありません。
…ずっと恋とは無縁…関係無い、そんな気持ちで過ごして来ましたから。
上手く言えませんが、それどころでは無かったと言った方が良いと思います。
今だって…、まだ、そんな心境になれないで過ごしています。だから、あの場所に行ったりしてるんです。そんな状況で…当分は、というか、恋愛は無理だと思います。
ですから、どうか、私のことは放っておいてください。そっとしておいて欲しいのです。お願いします。
私なんかに…、声をかけて頂いて有難うございました。
ごめんなさい。
送って頂いて有難うございました。あの…おやすみなさい」

私はそこまで言い切って、彼の手を離し、車から飛び出した。

別に逃げるようにしなくてもと思った。だけど、精一杯走った。…逃げたのだ。
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