そこにアルのに見えないモノ
ゆっくりと黒崎を立ち上がらせながら、胸や膝についた泥を叩く。
額の泥を撫でて払った。
「よく解らないんです。
私は自分の我が儘が招いた罪を貴方の会社のせいにして、楽になろうとしていたのかも知れません。
だから貴方に、今頃、話を無理にさせて、貴方を追い込んで辛くさせようとしたのかも知れない。
父が自殺した総ての要因は私が断った事にあります。
それは変わらない事実です。
例え、貴方が付け加えた条件だと言っても関係ありません。それが条件だったのですから。
経緯も解りました。
結婚無しでも、受けて貰えていた。
タイミングが…間に合わなかっただけです。
もういいです。充分です。
ごめんなさい。有難うございました」
「何が充分なんです?
僕が、バカ息子が妙な事を口走らなければ、起きなかった事なんですよ?
従業員のみなさん、家族、仕事をどれだけ大切に思っていたのか…。
貴女のお父さんの気持ち、少しも解っていなかった。
僕は…僕は、自堕落で、愚かな人間なんです」