そこにアルのに見えないモノ
総一郎の内情

「カオルちゃん。俺にはさ、別れた奥さんとカオルちゃんより少し下くらいの歳の娘が居るんだよ。カオルちゃんがこの店に来るようになるちょっと前に別れたんだけどね。
随分若い頃に出来た娘なんだけど。
……俺は、あの頃、無責任に生きてたな…、ちゃらんぽらんに。
今だって、ちゃんとしてるかと言われたら…どうなんだか‥。
奥さんは、しっかりした、出来た人だったよ。
だから、余計甘えがあったんだな…。
我慢させっぱなしで、つまらない人生を送らせてしまったよ。
若くて楽しい時期を、子育てに専念させて、俺は今言われてる、イクメンのような事は全くせず、自分だけ奔放に生きてたからな…。
ある時、いきなり言われたんだよ、奥さんに。
もう、いいでしょ、って。…待ってたんだろうな、時期を。
子供も高校生になっていたから、もう、一緒に暮らす苦痛から解放して欲しい、って。一緒に居なければ何をしようと気にならないからとね。申し訳なかった。
俺には異論なんて無かったから、いや、出来る訳がないから。だから承諾したんだ。
別れても養育費はいらないとまで言われたよ。何だか情けないだろ?
…そんな事があったからかな。
カオルちゃんを見た時、カオルちゃんに娘を重ねたのかも知れない…。
いや、それ以上のモノがあったのかも知れない。…何もしてやれなかった。罪滅ぼしのつもりなのかもな…。
…娘はね、なぎさっていうんだ」
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