この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
02変わりつつ現状維持
「変な奴」
「瑞希」
なんで名前なんて呼んじゃうのよ私
また瑞希が振り返るでしょバカ
瑞希は紙袋の中から着替えを取りだして着替えはじめていた
「いつまでいるんだよ?」
「あっごめん」
「居たいなら居ろよ」
さらりと病院の検査着を脱ぐ瑞希
包帯が痛々しいけど点滴がないからまだましなのかも
「瑞希」
背中越しになんど呼んだんだろう
瑞希はめんどくさがりながらちゃんと気にしてくれている
「なに?どうしたの?」
優しく後ろから抱きしめた
「ご褒美」
「たりねぇよ」
いきなり私の方を向いたかと思えば両手で私の頬を挟みながらキスをしてきた
「んっ···」
瑞希はすぐに離れると私の頭を撫でた
「おまえにはちゃあんと好きな奴がいるもんな」
「うっうん」
「まっ誘うにしては合格なんじゃねぇの」
「瑞希」
どうしてこんなに苦しいんだろう
「ご主人さま?」
「ごめん今日は帰るね大切な日なの」
去り際に瑞希が言う
「墓参り?」
「うん
今日が命日だから」
ゆきさんが亡くなった大切な日
なのに私は上の空だった
病院を出てタクシーでいつもの霊園に向かった
秋晴れで心地よいはずなのに私の心は晴れていなかった
ゆきさんのお墓を綺麗にしてお線香をあげていると後ろから声がした
「あらこんにちは麻衣さん」
振り返ればゆきさんのお母さんがいた
「こんにちは」
「いつもいつもありがとうね」
「いえ」
「でももう忘れてもいいんじゃないかしら?
あなたはあなたの幸せがあるわけだし」
「ないですよそんなの」
夢にまで見た結婚式
それがあんな形で裏切られるなんて
結婚式2人で色々と考えてやっとやっと幸せになれるそう思った朝
病院からだった
背筋が夏なのに凍えた
交通事故死その言葉だけが聞き取れた
ゆきさんが悪いわけじゃなかった
私はその日から恋をしないって決めたんだ
「私もう行きます」
お墓をあとにしてなんだか瑞希の声が聞きたくなった
ぎゅっとスマホを握って泣くもんかって思ってたら車のクラクションの音がした
「入江田」
「えーっと」
サングラスをはずすとようやくわかった
上司の菅さんだ
「おはよ休みか?」
「ええまあ」
「これからランチしないか?」
「はい」
上司に誘われた手前、断れず車に乗った
「なんでこんなとこに?」
「ちょっと用事で」
「そうか」
「はい」
「入江田は結婚とかは考えてるのか?」
「いえ」
車を運転しながら話しかけてくる
ほっといてほしいな
< 6 / 38 >

この作品をシェア

pagetop