王子な秘書とシンデレラな御曹司
いざ冒険の旅へ

風が冷たくなってきた。

今年の冬はいつもより
早く訪れるかもしれない。

「そろそろ自転車では寒くなってきました」

書類の山から目を離し
副社長は私にそう告げる。

ってゆーか
まだチャリ通勤してたんかいっ!

新米秘書と新米副社長
就任してから
早いもので一ヶ月が過ぎた。

まだ
狭い資料室がホームです。情けない。

「竹下さんすいません。企画二課の課長とお話をしたいので午前中に取り次いで下さい。あとロス支社に送る書類なのですが、もう少し強気で書くように言って直させて下さい。誤字もあります。それから広報から上がってきた予算の関係なんですけど、不明な点がありチェックしたので戻して下さい。あとですね……これを調べてもらいたいのですが……」

どうしたものか
何があったのかわからないけど
ヤル気スイッチが入ったようだ。

「会議資料を読みましたが、数字のミスがありましたので秘書課に戻しました。それとですね……」

私も必死で、副社長の言葉をメモ書きしていると

「10時だ。コーヒー入れますね」

壁にかかっている時計が現実逃避の時間を指し
副社長はいそいそと立ちあがる。

彼はエスプレッソマシンでは物足りなくなったようで
カセットコンロを含む
コーヒー用品一式セットを持ち込み
手挽きミルのハンドルをガリガリと回す。

コーヒー豆のいい香りが狭い部屋に広がり
幸せそうな表情になる。

御曹司なのに

幸せが安いぞ。




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