落ちてきた天使
「愛されてんだな」

「っ、愛……⁉︎」



洋平は真顔で一体何を言っちゃってるの。


愛だなんて、よく恥ずかしげもなくさらっと言葉に出来るな。



ボッと頬が一気に熱くなる。


皐月からは似たようなこと言われたけど、他の人からもそんな風に思われてると思うと恥ずかしくて堪らない。



「あんな皐月兄ちゃん見た事ない」

「あんなって?」

「バイトの面接の日。皐月兄ちゃんが必死な顔してたろ?俺に敵意剥き出しだったし。彩の事、相当惚れ込んでるんだと思ったよ」



あの日の皐月は、仕事から帰った姿のまま、髪を乱してスマホ片手に私を探してくれてた。


私を見つけた時、周りなんて目に入ってないんじゃないかと思うぐらい、真っ直ぐに私だけを見て。



『…止まるかと思った』

『心臓。お前が何処にもいなくて……マジで止まるかと思った』



家に戻ると、皐月はそう言って私を抱き締めた。


皐月の高くなった体温と加速した心臓の鼓動を直に感じて凄く嬉しいって……思ったんだよね。



「まさかあんなに独占欲強くてヤキモチ焼くとは思わなかったけどな」



洋平はハハッと笑って言うと、スマホの時計を見た。



「俺、帰るわ。もうそろそろ皐月兄ちゃんが来る頃だろ」

「え?一緒に帰ろうよ」

「今日は遠慮しとく。一緒にいるとまた怒り買いそうだし」

「あー…昨日の今日だしね……ごめんね」



その通り過ぎて、何も言えない。
気を使わせちゃって凄く申し訳なくなる。


洋平は「また明日な」と手を挙げると、背を向けて歩き始めた。



「っ、洋平!」



さっき聞きそびれた事を聞こうと、咄嗟に呼び止める。


だけど、振り返った洋平の顔が「今は聞くな」と言ってるように見えて、私はその言葉を飲み込んでしまった。



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