落ちてきた天使
「あ、あああ…ありがとう……」

「でも……」



皐月の眉間の皺が一層濃くなった。

そして、「はあぁぁ〜…」と深く長い溜め息を吐くと、皐月は赤くなった顔を隠すように手で口元を覆った。



「参ったな。お前の浴衣姿、誰にも見せたくねぇ……」

「っっ…さ、さつき……」



も、もうダメ……
皐月が物凄く甘すぎて頭がショートしそうだ……

きっと頭のてっぺんからぷしゅーって煙が出てるに違いない。



「仕方ない……俺から離れんじゃねぇぞ?」

「う、うん!」



皐月は当たり前のように私の手を握ると、引いて歩き出す。


ただ並んで歩いてるだけなのに、付き合う前と後じゃ全然違う。


私がどんなに遅くても、歩く速度を合わせてくれる。
気が付くと、いつも皐月が車道側を歩いてくれてる。


そんなことが、堪らなく嬉しくて擽ったかった。



「あれ?会場こっちじゃないよ?」



浮かれてて今気付いたけど、会場とは違う方向に来てる。


会場までの道のりには屋台が並び花火大会に行く人達で賑わっていたのに、私達はそこから逸れてるようだ。



「とっておきの席を用意してる」



皐月はそれ以上、何処に行くのか教えてくれなかった。


途中、コンビニで飲み物と軽くおつまみを買う。皐月に教えてないはずなのに、「これ好きだろ?」と私の大好物の唐揚げを籠に入れた。



「何で知ってるの?」

「この間、唐揚げ作った時すっげぇ美味そうに食べてたから」

「…それだけで?」

「いつも美味そうに食ってるんだけど、唐揚げだけは破顔してたし」



ゔ……ゔわあぁぁ〜……
破顔してたって、どんだけ顔に出てるのよ私!


自分で気付かないうちにもっと変な所を見られてるんだと思うと、恥ずかしくて逃げたくなる。


好きな人にはいつも可愛く思われたいのに。



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