落ちてきた天使
「ありがとう、行ってくる」



そう言って、再び歩き出す。

一歩、また一歩。少しずつ歩幅が広く速くなり、いつしか走り出していた。




メキッ…!


「また崩れるぞっ!」

「退避!退避ーっ‼︎‼︎」



不穏な音がした後、消火活動をしている消防隊から声が上がった。

建物の近くにいた隊員がすぐに退避する。
それでも、私の足は止まらない。

皆とは逆方向へ。
今にも崩れそうな施設へと。


皐月…

皐月っ……

皐月っ……‼︎どうか無事でいて。






メキメキメキメキーーーー…‼︎‼︎


施設まであと数メートルという時、さっきよりも大きな音が私の真上辺りから聞こえて咄嗟に見上げた。


っ、崩れ………


私目掛けて真っ黒に焼けた何かが落ちてくる。
本当はそんなことないはずなのに、スローモーションに感じた。

周りの雑音という雑音が全て遠退き、自分の恐怖で震える心臓の音だけが私の最期をカウントダウンするように鳴り響く。


どうする事も出来なかった。
目を閉じる事も動いて避ける事も……

頭の中が真っ白で、ただ呆然と見上げていると。






「ーーーーー彩っ‼︎‼︎‼︎」



突然、後ろから腰に何かが回った。

爪先が宙に浮き、痛いぐらいに引き寄せられ、最後には温かくて硬くて広い何かに私の身体は着地した。


鼓動が跳ね上がる。


この匂い……

腰に回る“何か”も、私が着地した温かくて硬くて広い“何か”も。

知ってる……


私が情けないぐらい大好きな彼のものだ。



「さ、つき……」



込み上げてくる愛おしさと、安堵感。

涙が頬を濡らし、むせび泣きで漏れた声が大好きな人の名前に変わった。







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