落ちてきた天使
「行っちゃったな」

「行っちゃったね」



最後まで後ろで静かに見守ってくれてた洋平と並んで空を見上げる。

真っ青な空に飛行機雲。
秋風が涙で濡れた頬を撫で、澄んだ空気が私の悲しみでいっぱいの心を清々しい気分にさせてくれた。



「俺も行くかな」

「本当に手伝わなくていいの?」

「ああ、荷物全然ないから平気」



洋平は、これを機に施設を出て一人暮らしすることになった。

幸いにも、私がこの町に来た時にお願いしていた不動産屋に聞いたら、ちょうど条件に合った良い物件が近くにあったのだ。



「じゃあまた学校でね!」



「おう!」と、手を挙げて答えると、振り返らずに小さくなる背中。

本当に、これで最後の見送りが終わったーーーー。






「ただいま」



夕方6時。
入所者全員の見送りが終わり、間借りしていた公民館の部屋の掃除を職員と済ませると、私はスーパーで夕飯の買い出しをしてマンションに帰った。


もうすっかり外は暗くなってしまった。
この時期になると日が落ちるのも早い。

当然、誰もいない部屋も暗くて、わかっていたことなのに寂しくなりながら部屋の電気をつけた。


キッチンに買ってきた食材を置き、シンクに手をついてリビングをぼーっと眺める。

公民館の掃除をしてる時も思ったけど、いつもいる人がいないって凄く寂しいことだと思う。

ぽっかり穴が開いたような、自分だけ置いてけぼりになったような、そんな感じ。



「夕飯、作るか!」



両頬を二度叩いて、気分を入れ替える。


久しぶりに早く帰れたし、今日は皐月も早く帰ってこれるって言ってたし。

久々に手料理を振る舞いたい。
私がやることを最後まで見守っててくれて、自分だって仕事が忙しいのに私の心配までしてくれた皐月にお礼がしたい。

だから、今日は皐月の好きなメニューを沢山作って待ってようって思った。




< 231 / 286 >

この作品をシェア

pagetop