落ちてきた天使
店主は白く大きい前歯をニコッと出して笑う。



額には酷い汗だ。


調理場は熱々のスープ鍋や焼き場からもくもく湯気が立ち、地獄のような暑さなんだろうと安易に想像がつく。



まだ夕方5時前だというのにお客さんは私達以外に3組。


洋平が言うには、夜は平日でも結構混み合うらしい。


地元じゃ美味しいラーメン屋として人気で、何回かテレビの取材も受けたことがあるとか。



いただきます、と割り箸を割ると、まずはレンゲでスープを一口飲む。



「っ‼︎美味しい!」



ギトギトだと思っていたスープは予想よりもあっさりとしていて、口内にニンニクがほのかに香る。


卵もチャーシューも餃子もクセになる。


私はラーメン屋に一、二回しか行ったことがなく、どれも特別美味しいと思ったこともない。


それに、ラーメン屋って床もテーブルも脂っこくて綺麗な印象はないし、男性ばかりで女性が食べに行くような所じゃないなんて思っていたけど。


ここのラーメンはまた食べたいと思うほどだ。
店内も綺麗。テーブルもメニュー表も脂っこくなく、清掃が行き届いてる。


ラーメン屋のイメージがガラリと変わった。



「だろ!親父のラーメンは天下一なんだよ」

「うっせぇよ、バカ息子!」



洋平は自分が作ったわけじゃないのに自慢気に話し、店主はそれを嬉しそうに聞いている。


二人は本当に仲が良いんだな、って思った。


店主とアルバイトの関係じゃなく、父親と息子みないな感じだ。



こういうの、凄く憧れる。


本当の家族じゃないけど、それに勝るほどの絆。



「おやっさん。明日から宜しくお願いします」



ペコッと深々と頭を下げる。


私が此処、【麺や 天下一】で明日からお世話になることになったのは、数時間前の昼休みに遡る。




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