落ちてきた天使
皐月は私の手首を掴むと、乱暴に靴を脱ぎ捨てて家に上がり、私を椅子に座らせた。


そして、自分はテーブルを挟んで向かいの席に腰を下ろすと、さっきの絵に描いたようなニコちゃん顔から一転、眉間に皺を寄せた。



時計の針の音だけが部屋に響く


その音が嫌な緊張感を煽ってくるせいで、心臓が口から出てしまいそうだ。



「ごめんなさい‼︎」



重苦しい空気に耐え切れなくなって、私は勢い良く頭を下げた。



「遅くなるって連絡しなかったことは本当に悪いと思ってる。心配掛けてごめんなさい」



皐月は何も言わない。
その沈黙が逆に怖くて、目をギュッと閉じた。



「次からはちゃんと連絡します。だから、」

「ずっとアイツといたのか?」



私の言葉を遮って皐月が言う。


「アイツ?」と、顔を上げると視線が交わった。


途端、跳ね上がる心臓。


私、この瞳…知ってる。


嫉妬で熱く揺らぐそれを、私はこの間見たばかりだ。



「うん…」

「何で?」

「何でって…ちょっと」



この空気でバイトのことを話すのは危険な気がする。


ただでさえ、そのことで喧嘩したばかりなのに、今言ったら逆鱗に触れるだけだ。



「俺には言えないこと?」

「違う」

「じゃあ何?言えよ」



ギラリと鋭く光る瞳。
それは真っ直ぐと射るように、私を見据えている。


まさに蛇に睨まれた蛙だ。


私は皐月の圧に、首を竦めて縮こまったまま硬直してしまった。



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