落ちてきた天使
「今は…言いたく、ない」



蛇のような目から視線をサッと逸らす。


横顔にビシバシ圧を感じるけど、縮こまりたいのを我慢して手を握り締めた。



「は?」

「だから、言いたくない。今言ったら、皐月怒るでしょ」



一度、皐月をちらっと見る。
皐月は微かに目を見張ると、顔を顰めた。



「怒らない」



はぁ、と気持ちを落ち着かせるように息を吐くと静かに言った皐月。


さっきのような怖い雰囲気はもうない。



「…嘘」

「嘘じゃない」

「絶対怒らない?」

「ああ。約束する」



だから言えって、と座り直した皐月は、いつもの優しい彼の顔に戻っていた。



「バイト紹介してもらったの」

「バイト?」



コクリと頷く。
皐月は怪訝な表情を浮かべた。



「何のために?」

「生活のために」

「生活のためって…俺、言ったろ?生活費はいらねぇって。そのためにバイトしようと思ってるなら必要ない」



皐月はばっさりと言い捨てる。


約束通り、怒ってはいないようだけど、だいぶ呆れた様子だ。



「皐月は何もわかってない」



沸々と湧いてくる苛立ち。
喉の奥の方から声を絞り出す。


昨日は分からず屋の皐月に言う気が無くなって、勝手に拗ねて一人で怒ってたけど。


もう無理だ。



「洗濯も掃除も何もしなくていい、生活費もいらないって、何それ」

「彩?」

「私にやらせるのは心配⁉︎頼りない⁉︎」

「そんなこと言ってないだろ?」

「言ってなくても思ってるでしょ?掃除させたら何か壊しそうだし、洗濯させたら服縮ませそうだし、食器洗わせたら沢山割られそうだしって」



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