偽悪役者
「そうなの。貴女にはお似合いね。人に傅いて服従しているその姿。」



静音の全身を舐めるようにして見る岨聚の目付きは、高いヒールを履いていて身長差があるのを差し引いてもかなり鋭いものだ。



「………目障りなのよ。」


「!!!」



岨聚は手にしていたシャンパンを、静音の頭に1滴残らずかけた。


静音は胸の辺りまで濡れ、髪の毛からは雫が滴り落ちている。



しかし、ご令嬢の行いだからか静音を庇う者は一人もおらず、加えてクスクスと嘲笑まで聞こえる。


そばにいた4人も一瞬表情が強張ったが、言葉は発しない。



「椎名、こらえろ。」


「っ……、篠宮さん…。」



一歩踏み出しそうになった椎名を篠宮は言葉で止めるが、椎名が見た篠宮の握り締められたその拳は震えていた。



「離してください…!」


「今行ったら騒ぎになる。」



飛び出す勢いの橘の腕を掴み、来栖はやりきれない思いながらも必死で引き止める。



招待客はおろかホテルのスタッフさえも手を出していないこの状況で静音を庇えば、後々関係を疑う者が出てこないとも限らない。



静音の言葉通りここは見守り、耐えるしか無かった。
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