その愛の終わりに

年末に向かうにつれ、美都子は忙しさで気が紛れるようになっていった。

孫の催促をする義母にも、正月準備の話を滑り込ませればそちらに気持ちが向くため、深く追及はされない。

大掃除も、自分がするわけではなくとも、広い屋敷内をくまなく見て回るとかなり時間がかかる。

帰省する使用人達にはお年玉を持たせねばならない。
お節の材料や酒の買い出し、年賀状の用意もある。

山川のことを忘れたわけではない。
しかし、彼のことだけを考えて一日を過ごすわけではなかった。
義母を補佐し、時には率先して屋敷内の采配をふるう美都子は、日中はとにかく動き回っていた。

普段なら空き時間は読書をして空想に耽るところだが、師走はそうもいかない。

就寝前の一刻だけが、美都子が自由に使える時間だった。
庭師に頼み、茉莉花の花を自室に生けてもらうことで、山川と過ごした一夜を思い出す。
そして濃厚な茉莉花の香りに包まれながら眠るのが、ここ最近の美都子の幸せだった。

明日はとうとう大晦日である。

あと一日で会える。
そう思えば、期待と喜びに自然と顔がほころんだ。

元旦だし、華やかな装いをしても良いだろう。
洋装が基本の東雲家でも、この日ばかりは皆着物や袴である。
美都子も、若草色の生地に金糸で刺繍を施した留袖を用意していた。

「似合っていると言ってくださるかしら……」

あまり長く言葉を交わすことは出来ないであろう。
人でごった返す神社では、どこで誰が見ているかわからない。
それでも、一目姿が見られればそれでよかった。

眠りにつく寸前まで、美都子は山川を想い続けた。
会えないことが寂しくないわけではなかったが、思い出すだけで気持ちは満ち足りていた。

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