好きだと言ってほしいから
 『日栄自動車』。国内に限らず世界でも有数の自動車メーカーで、私はこの本社の総務部庶務課で働いている。こんな辺鄙な場所にあろうと、大企業の本社勤務。人見知りが激しく社交的でもない私がこの会社に入社できたことについては、今でも信じられない。

 それでも私はこの会社からの内定がどうしても欲しくて、そのためにおそらく、いや、確実に、大学受験の時よりも努力をしたし勉強もした。そして念願の内定を貰うことができたのだ。

 数秒立ち止ってビルを眺めていた私が再び歩き出すと、植木を挟んで向こう側の私道を見慣れた白い車が入ってくるのが見えた。

「あっ……」

 思わず小さな声を上げた私は、小走りで会社のエントランスに向かった。そのまま大きな自動ドアを通り過ぎ、建物の裏側にある社員通用口へと急ぐ。予想通り、社員駐車場の方から黒いスーツを着た長身の男性が歩いてくるのが見えた。

 ここは会社で私はこれから一日仕事だというのに、私の心臓は急激に高鳴っていく。でも、これが入社してから二年間の、私の毎朝の日課になっていた。

「逢坂(おうさか)さん」

 私は胸の前まで上げた右手で控えめに手を振った。恐らく私に気づいていた彼はすぐに笑って小さく頷く。彼が私の前までやって来ると、私は彼と並んで歩いた。

「おはようございます」

「おはよう」

 笑顔で挨拶をする私を見下ろして彼が微笑む。

 逢坂浩太(こうた)さん。二つ年上の彼と付き合い始めてからもうすぐ二年が経とうとしていた。
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