好きだと言ってほしいから
「え?」

 気づいて顔を上げたときには、私のスマホは葵ちゃんの手の中だった。

「こんばんは~。麻衣の友達で同期の松崎です~」

 葵ちゃんにはめずらしい、間延びした猫なで声だ。私は驚いて目をぱちくりさせる。呆気にとられて葵ちゃんを眺めてしまった。

「今、麻衣と駅前の居酒屋で飲んでるんですけど、よければ先輩も来ませんか~? ええ、そうです。6Fの……ですよね~。この辺、田舎で飲むところも限られますよね~。はい……はい……もちろんですよ~。はい、是非! 本当ですか? わーい。ありがとうございます。じゃあ待ってますね!」

 葵ちゃんが嬉しそうに電話を切った。

「はい、麻衣。先輩、すぐ来るってさ」

 私にスマホを渡しながら葵ちゃんがウィンクする。

「ウソ……」

「ウソじゃないって。良かったじゃん。明日も休みだし、もう今日はこのまま先輩のとこに泊まっちゃえば? 近いんだし」

 葵ちゃんの一言に、私は苦笑しつつスマホをバッグに入れた。泊まりたいのはやまやまだけれど、逢坂さんは何があっても私を家まで送ってくれる。だから今日も彼はきっとここまで自分の車でやってきて、お酒は一滴も飲まないだろう。

 それから十分もたたないうちに、逢坂さんがやってきた。
 白ニットにグレーのリブパンツとスニーカー、黒いジャケットを羽織った彼は、よくあるラフなスタイルなのにとてもクールだ。久しぶりに逢坂さんの姿を見たみんなは呆けたように彼に見惚れている。そして、毎日彼を見ているはずの私の鼓動は速くなりコントロールが出来なくなった。
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