好きだと言ってほしいから
 一階に到着しエレベーターを降りた私は、化粧室に寄って少し落ち着いてから自分の席へと戻った。

 定時になり、いつものようにデスクを片付け席を立ったとき、総務のドアを出たところに逢坂さんがいたから驚いた。
 廊下の壁に背中を預け、腕を組んだ彼は軽く右足を曲げて立っている。彼が定時で帰れることなんてほとんどなかったから、私は待っているつもりだったのに。

「麻衣」

 私に気づいた逢坂さんがふわりと笑った。だけどいつもよりもぎこちない。きっと彼も緊張しているのだ。
 私も何とか微笑む。多分、上手に笑えたと思う。この調子なら大丈夫。彼から別れを切り出されても、ちゃんと笑顔でいられるはず……。

「逢坂さん、お待たせしてごめんなさい」

「いや、時間通りだよ。帰ろうか」

「はい」

 逢坂さんに続いて社員通用口から出る。バス停へは向かわずに、彼と一緒に駐車場へと回った。

 白いボディのSUV車。ピカピカに磨かれたこの車に乗るのも、今日が最後になるかもしれない。そんなことを考えてぐずぐずしていたから、逢坂さんがドアを開けてくれた。私は慌てて乗り込むとシートベルトを締める。ハンドルを握った逢坂さんは、今日も滑らかに車を発進させた。
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