好きだと言ってほしいから
 葵ちゃんが立ち上がる。リビングのドア脇に設置されたディスプレイを見ながらボタンを押して応答した。

「遅ーい!」

「仕方ねぇだろ。俺の会社から此処まで何分かかると思ってんだ」

 聞こえてきたのは、よく知った大きな声だった。

「んじゃ早く上がってきて」

 そう言って葵ちゃんがボタンを押すと、しばらくしてもう一度インターホンが鳴った。これは玄関のチャイムだ。
 そして葵ちゃんが玄関に行ってすぐ、リビングに入って来たのはやっぱり平岡くんだった。

「よお」

「平岡くん……」

 真っ赤になった目元を隠す術はなく、私は泣き腫らした顔のまま平岡くんを見上げた。

「ひでえ顔だな」

 平岡くんは苦笑しながらソファの前、ラグの上に直接座っている私の隣に、片膝を立てて腰を下ろす。
 葵ちゃんは平岡くんに缶ビールを渡すと私たちとはテーブルを挟んで対面した。

「ひっ、平岡くん、まっ……まだ、こっちに……いだっ……の?」

 まだまだ涙が止まらない私はしゃくりあげながら隣の平岡くんを見る。
 そんな私を見て半ば呆れながら彼は笑った。
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