好きだと言ってほしいから
「今週末まではこっちの社員から引き継ぎ済ませるように言われてんだ。それが終わったら東京戻って今度は自分の仕事の引き継ぎだな」

「そっ……そーなんだ。い、異動って……、大変だっ……ね」

 なかなか落ち着かない私に、平岡くんは私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。

「麻衣の方が大変そーだけどな」

「わ、わたっし……」

「あー、もう、ほらほら。無理して喋んなくていいから。飲んで思い切り泣いて、少しはスッキリさせな」

「葵ちゃん……私、飲めない……」

 私が恨めしげに葵ちゃんを軽く睨むと「麻衣はこれ」と言ってウーロン茶のペットボトルを渡してくれた。葵ちゃんは平岡くんと同じ缶ビールだ。
 平岡くんがプルタブを引いてぐびぐび飲む。私も一口だけウーロン茶を飲んだ。

「それにしても逢坂さんが海外転勤なんてなあ……イテッ」

 平岡くんがポツリと呟いた言葉に私がまたジワリと涙を滲ませると、葵ちゃんがテーブルの下から平岡くんを蹴った。

「バカ」

「蹴るこたァねーだろ」

 そんな二人の様子に私はほんの少し笑った。涙でぐちゃぐちゃのひどい笑顔だったと思うけれど。

「まあ、平岡くんもこっちに戻ってくるしさ。こんな奴だけど居ればやっぱ楽しいし、また昔みたいにみんなで遊びに行ったりしよーよ」
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