生徒だけど寮母やります!2

追想







20××年 12月 28日


ジンと手がかじかむような寒さの中

入学以来、約9ヶ月ぶりに実家の大きな門を目の前にして、爽馬は立ち止まった


入るのをためらっていると、そこに現れた懐かしい人物に、爽馬はそちらを向いた


「一条さん」


小さいころから面倒を見てもらっている、年老いたお手伝いさんだ


「あらあら、大きくなったねぇ。一瞬誰だかしんと思ったっけよ」


独特の訛りと共にくしゃりと笑う一条の方は、前よりも年老いたのがよく分かった


「さ、冷える冷える、早く中に入るさ」


爽馬は一条に続いて、よく勝手を知る大きな平屋の家へと足を踏み入れる


心の底から入りたくないと

そう思っていた


彼女は爽馬を居間に通すと、同じく居間で本を読んでいた爽馬の姉の分と共にお茶を出し、また仕事へと戻っていった


パラ.....と、姉が本のページをめくる音だけが空間に響く


爽馬は、茶には手をつけずに、視線を本に落としたままの彼女を見た


「..........何」

姉、エマは本を読みながらそう呟く


爽馬が「別に」と視線をそらすと、エマは表情を変えぬまま


「高校生活は楽しかった?」


そう尋ねた


胸に突き刺さるような質問だと思った


「僕は.....あの高校をまだ辞めるつもりはない」


「..........そう。頑張って」


姉が悪いわけではないことはわかっている

それでも心にもないエールを送るエマと同じ空間にいることが何だか気持ち悪くて、爽馬は茶に口をつけぬまま居間から出て行った
< 178 / 547 >

この作品をシェア

pagetop