真夜中の恋人
お店を出ると、タカヤがわたしの腰に腕を回して引き寄せた。

一人で歩けないほど酔っている訳じゃないのに……。

「どうしたの?」

「…………」

見上げると、タカヤは厳しい表情で黙り込んでいる。
お店にいたときはご機嫌だったのに、一体どうしてしまったの?

お酒で浮腫んでしまった足が痛い。だけど、何も言えずに大通りまで一緒に歩いた。


「ナツ」

「なに?」

「話しておきたいことがあるんだ」

タカヤの低い声が鼓膜に響くと、胸に小さな漣(さざなみ)が立った。


雲の切れ間に薄っすらと見えていた月も、今はすっかり姿を消してしまった。
夜更けすぎには、雨が降るのかもしれない。

タカヤは立ち止まると、前を向いたままで静かに口を開く。

「俺は、一度離婚を経験している」

「……」

「もう結婚するつもりは無い」

想像していたよりも驚かなかった。


「どうして、わたしにそんな話をするの?」

「さあ、どうしてだろう」

タカヤは薄く笑うとタクシーを止めた。



< 68 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop