エリート医師に結婚しろと迫られてます

私は、方向を変えて病院の建物に向かって歩く。

大学病院の巨大な建物は、ライトの強力な明かり照らし出されて、闇の中に浮かび上がる堅固な要塞のように見える。


ゆっくり来た道を引き返しながら、私は空を見上げた。

そのすぐ上に、大きな真ん丸の月がぽっかり空に浮かんでいる。


段々暖かくなるこの季節が好きだ。
私は、足を止めて春の薄い雲に霞んだ月を眺めていた。
風に吹かれて、雲が流れていくのが分かる。


「春立てる霞の空に…か。森谷さんが来たら、教えてあげよう…」


「麻結?」

横から長い腕が伸びて来て、私の体を絡めとり、彼は、私を腕の中に抱いた。


「森谷さん?」

「僕が、どうかした?」


「散歩するには、いい時期ねっていいたかったの」
私は、振り返って彼の肩越しに見える月を見て言う。


「ひどいな。こっちは一刻でも早く君に会いたかったのに、君はのんびり歩いてるなんて」
彼は、急いできたのか息を整えながら言う。


「だって、急いで行くって言ったら森谷さんも急がなきゃいけないでしょ?」


「いいよ。麻結に会うためなら。どんな努力でもするよ」
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