HE IS A PET.



「サキちゃん。サキちゃんの好きなヤツってさあ、タツキのペット?」

「なっ……何で」

「サキちゃん、懐かれるのに弱いじゃん? タツキのペット、サキちゃんに懐いてるって聞いたしー。タツキが探しに来たよ、サキちゃんが出掛けてるときに」


「懐いて、ないよ。私じゃ駄目だったもん」

 怜は私の手を拒絶した。
 選んだのは、悠里に会える可能性。

 アズミンが迎えに行ったなら、また違ったのかもしれない。
 チトセと上手く話をつけて、もしかしたら今頃怜を取り戻しているのかもしれない。


「サキちゃん、覚えてる? 泣きたくなったら、俺をハンカチにしてって言ったの」

 畳みかけでグシャグシャにしてしまったシャツを私の手から取り上げると、脩吾は私をかき抱いた。
 膝立ちになった高さから、包みこむように。

 押しつけられた固い胸板から、伝わってくる温かい鼓動。香ってくるのは、うちの柔軟剤の匂い。


「……思い出した。ありがとう、脩吾」

 前にもあった。こうして抱きしめてくれたことが。

 高校生時代。青春を捧げていた夢に破れた私を、飽きるまで泣かせてくれた脩吾がいたから、前に進めた。

「泣きなよ、サキちゃん。俺、ハンカチに徹するから。何も思わないし、誰にも喋んない」

 そう言って私の頭と背中を撫でるハンカチは、よく喋る。私の嗚咽が止むまで、他愛のない話を一人で続ける。

 頭を撫でる手は、時折頬も撫でる。背中を撫でる手は、いつしか腰を抱いていた。

 そう気づいた頃に耳元で囁いた。

「ねえ、サキちゃん。肌布団に変身していい?」


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