HE IS A PET.


 普通に悩んでどうする。初デートに浮かれる乙女かっての。

 TOCCAのお嬢様風ワンピースに着替え、それに似合う物を選んで身に付けた。



 迎えに来たチトセが、私を見て感想を述べた。

「悪くねえな」

 誉められた気はしない。良いとは言えないのか。
 そんなチトセは、見るからに仕立ての良い濃灰のスーツに、紫のネクタイ。カルティエのタイピンにカフスボタン。悪くはない。

 チトセはスーツの内ポケットから、一通の封筒を出した。
 取り出して見せられたのは、例のスクープ撮りだ。私とチトセが裸で抱き合っている写真。
 こうして見ると、余計生々しい。
 
「脅し?」

「これと同じものを、一時になったら梶があんたの会社へ届ける。選ばせてやるよ。写真を差し止めに行くか、安住を連れ戻しに行くか」

 鋭い瞳が選択を迫る。脅しじゃなく、本気だと伝えてくる。

「後悔しない方を選べ」

 常に正しい選択が出来たなら、どんなにいい人生だろう。

 写真を持っている手と、持っていないほうの手。両方を差し伸べて、チトセが言った。


「さあ、どうする?」
 
 何も持っていないほうの手を取った。
 
 チトセは口元に運んだ私の手の甲に、慈しむようなキスを落とした。

 まるで洗礼のように。

 今すぐ引き返せと、どこかで警告音が鳴っているような気がした。



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