HE IS A PET.
Birthday
「あ? 倉橋、まだいたのか」
事務所に戻ってきた長尾さんが、私を見て意外そうな顔をした。
まだ午後八時前だ。
不思議そうにされる方が、不思議なんですが。
「はい。来週、オウミツと白川にISOの監査が入るらしいんで……」
夏から秋にかけて、ISO監査のラッシュになる。顧客から続々と相談が入る。
「アズミン社長と会わなくていーのか?」
「何でですか?」
AZMIXとのアポはない。あっても、会うのは真崎さんだし。
「今日、誕生日だろ」
ああ、そーだった。
毎年誕生日にはアズミンから電話があって、誕生日に予定のない私を憐れんで、デートしてくれた。
「安住社長もお忙しいですからね」
「何だ、ショボくれてんなあ。しょうがねーなあ、メシ行くか」
「もう食べました。長尾さん、直帰かと思って。すみません、気を遣って頂いて。ありがとうございます」
「何食った?」
「コンビニ弁当です」
「ショボくれてんなあ」
「放っといてください」
肩をすくめて、長尾さんは自分のデスクに着いた。荷物を整理し、ネクタイを緩める。
もう帰るのかと思ったら、
「メシ買って来る」
と言い置き、出て行った。