HE IS A PET.


 私はまた安易な約束をして、それを守れなかった。

 仕事が終わったら様子を見に行くと怜に言ったけれど、仕事がなかなか切り上げられず行けなかった。

 真崎さんに電話すると、怜は晩御飯におかゆを食べ、薬を飲んで眠ったところだと教えてくれた。
 


 結局、あれから怜に会わずじまいだ。



 翌々日、帰国したアズミンから電話があった。
 早く会いたいけれど、ちょっとバタバタしてるからと前置きされて、一週間後に食事をする約束をした。

『ちょっとバタバタしている』には怜のことも含まれている気がして、私は平身低頭に謝った。


「ごめんね。怜、風邪引かせちゃって。体調管理、できなかった私の責任……体強くないって聞いてたのに。熱は下がったって聞いたけど、まだ具合悪いの?」

「ああ、怜? 大丈夫よー。熱がバーッと出たみたいだけど、ガーッと下がって、今はもうビンビン」

 
 擬音語へのツッコミはこの際スルーするとして、

「そう、良かった」


「体調管理なんて、怜の自己責任なんだから。気にしなくていいのよー。それより問題なのはあれよ、アレ」


「アレってどれ?」


 日本を離れている間に、日本語が不自由になってしまったんだろうか。


「同級生の子に、乗られそうになったらしいじゃないの。するのは別にいいんだけどね、ちゃんと着けるように言ってよ」


 違った、饒舌すぎて理解できない。白昼堂々何の話デスカ。


「それ怜に言ってよ。それこそ自己責任じゃん、私の管轄外」


 確かに現場に遭遇して叱りはしたけれど、注意する以前の問題だったと思う。


「あの子、流されやすいからね~。セックスは自由にしていいけど、リスク回避は大事よって常々言ってあるんだけどねぇ。たっぷりお仕置きしてやらなきゃ駄目ね」

「ちょっと。怜、病み上がりなんだから。酷いことしないでよ」

「酷いこと? 怜は好きよ、酷くされるの。咲希に踏まれて、どーせ悦んでたんでしょう?」

 そんなことまで報告するなんて……忠犬恐るべし。

「怜って、アズミンに何でも話すんだ」

「嫌がっても、あたしが訊くからねー。怜の口を割らせるのは、赤子の手を捻るくらい簡単ってやつ」

「はあ。さようですか」

 段々単なるペット自慢にしか聞こえなくなってきて、面白くない。
 『出来の悪い子ほど可愛い』的な、あれ。


「また、たまには咲希にも貸してあげる」


『可愛い子には旅をさせよ』的な、これ。


「いい、遠慮しとく。私、忙しいから」




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