片腕のピアニスト

その子も個室だった。



自分の個室から大分離れているのに違和感は感じたが、そう重要な事ではないのだろう。



305号室
木村 楓


ドアの横には、ただそれだけ書かれていた。


きむら………かえで…。



名前の由来など、容易に想像できそうな名前だ。






ここに来るまでに、看護婦が俺のうわさ話をしているのを何度か聞いた。


『あ、あの子よ。
万引きの後バイク乗り回して逃走して、事故起こしたんだって…くすくす。』

『ああ、あの子なの。
やだ、こわぁい…くすくす。』



そんなの、どうでもよかった。


もう何でもいい。









俺の主治医が305号室の扉を静かにノックした。



『…はぁーい。』


扉の奥から、俺より遥かに幼い男の子の声が聞こえた。



主治医がその返事を聞き、扉を開けようとするのを俺が制す。


「……案内してくれてありがとうございます。………。


…………後は一人で行かせて下さい。」



強く、目を見ていった。



「…うん、わかった。



…君も分かってるだろうけど、
腕のことについて話さないといけないから終わったら部屋に戻っててくれ。」



「……わかりました。

…ありがとうございます。」





白衣の背中を見届けてから、扉に手をかけた。



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