片腕のピアニスト

2、3年前に新しく変えたのだろう。


カラカラと静かに回る引き戸を開けていく。



明るくも暗くもない、真っ白な部屋が視覚を眩ませる。

夏のこの季節には似合わない、緑のない部屋だった。




少年が体をおこすと、ベッドが少し軋んだ。






「…………こんにちは。お兄さん。」




少年は微笑んだ。



俺は、もっと泣かれるだろうと思っていたから、ドアを閉め、突っ立ったま少年を見ていた。


真っ白な病室と、少年の姿が美しく見えて、少し心が嫉妬した。





ああ、アイツは真っ白だ。


ただ、そう思った。




「僕の名前は……まあもう知ってるかもしれないけど木村楓ってゆうんだ、よろしくね。お兄さん。」


そいつは、さらさらとそう述べた後俺の前に手を差し出した。



俺は、なんとなくその手が取れなくて、少年と目を合わせないようにした。




「………。」


差し出した手を取られないとわかった少年は、行き場の無くなった手をおずおずと引っ込めて笑った。


「……何で怒らない。」



「…え?」


「………俺は、お前を巻き込んで事故ったってゆうのになんで怒らない。泣かない。」


どうやら、医師に聞いた話によると、この事故を起訴しないというらしい。


しかもそういったのはこの少年で。

誰が何故だと聞いても、「いいから、いいから。」

というそうだ。




「なんで、俺を起訴しない。

こんなクソ野郎捕まっちまえばいいんだ。


最後まで優しさに気付けなかったから。

生きてる意味なんて、ないんだよ。」



唸るような声がでた。


「……なに言ってるの…?お兄さん。」



「……僕、お兄さんに死んでほしいなんて思ってないよ?

僕ね、お父さんとお母さん1年前に死んじゃったんだよ。」



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