親指姫な彼女と普通の俺

種 買っちゃいました

アパートは駅にもスーパーにも近い
そこの二階が太陽の家である

部屋に入るとカバンを下ろして
冷蔵庫からお茶を出す

「あれ もう飲み物ないな 買いに行かないと」

お茶を一杯 猫のコップで飲んでから
エコバックに財布を放り込んで出かけた

夏も終わり、秋が訪れて夜は肌寒い
スーパーで買い物を済ませて、てくてくと歩く

ふと立ち止まる
こんな道だったか
見慣れた自動販売機も 電灯もない

いつもと同じ道のはずが
なぜか見たこともない一本道に立っていた

「あれ? 変だな 慣れた道で来たはずなのに」

まぁ進もう
またてくてく歩くと明かりがぼんやり見えてきた
近づいてみると、深くフードのある黒いマントに身を包んだ、小さな何かがいた

ダンボールの箱に、見たこともない石やら木の実やらがのっている

近くにある提灯がぼんやりとした明かりだったようだ

「おー いらっしゃいじゃ」

しゃがれた声で老人だったようだ
太陽は訪ねた

「えっとー ここってお店~…なんですか?」

老人は頷いてゆらゆら揺れている

「へいへい なんでも屋でございますよ
お金のため…じゃなくて みんなの夢のために商売ですじゃ」

「今、金って言ったよね~」

老人は慌てだしたように

「まっ…! まぁまぁ お兄さん 何かいらんかね? いいものあるよ?」

財布を取り出して、中を見た
よし、152円しかないね
財布をしめてうんうん頷いて笑った

「今無理だ お金ないし 」

「なぬー! なんじゃと! 人間のくせに金無しかー」

「夢って言ってたのに おもっきしお金求めるなぁ」

老人はふぅと溜め息をついた

「何円あんのーーー?」

若干、性格の変わった老人に

「152円…だよ?」

と言うと、途端に飛び跳ねて喜び出した

「あるじゃー!あるじゃー!お金あるじゃー!」

「こんだけでいいの??」

「もちろん!人間の貨幣いいぞー!」

そう言うと老人はマントの中からガサゴソと色々なものを取り出した

「これドラゴンの目玉 これは人魚の写真集 あとこれエルフの曝露本ね」

「え えっとーーー… なんてゆうかさ もっとー 平和なものない?」

太陽がそう言うと あるある!といって出してくれた

茶色の小さな種
柿の種だろうか?
ツヤツヤとしている 

「これ、育ててみたらいいぞー!妖精の種!」

「え!」

その言葉に反応した
そう聞いてみると不思議となぜか欲しくなってしまう
大きく頷いて

「欲しい!それにするよ!152円しかないけど!」

「やったじゃー!まいどありじゃー!」

そうして綺麗な透明の袋に種を入れて
渡された

「ほい 取り扱い説明書」

「え!取り扱い説明書なんてあるの?」

老人はやれやれと言って

「あんさー 妖精一匹育てるんだからいるに決まっとるでしょー?」

「うーん 辞書くらいあるんだけど…」

一瞬頭が痛くなる思いがしたが
妖精のためならと承諾した

「だいたい1週間から10年で芽でるじゃ」

(すごいムラがあるなぁ…)

太陽は種を見つめた

「あのさー なんの妖精の…」

そう言って顔を上げると
もう老人の姿はどこにもなかった

いつもの道
自動販売機と電灯がある

「あ あれ…?」

残されたのは152円という激安な妖精の種と
辞書のように厚い取り扱い説明書

「ん?あの人 人間の貨幣って言ってたような気がするけどー… まぁいいかな」

そしていつものようにてくてくと家に向かっていった






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