カルテットリバーシ
2.一緒にお出かけ
 放課後、今日は部活があるから緋色には先に帰ってもらった。
 毎週火、木は部活に出て、展覧会用の絵を書く。美術部。大学に行っても続けたいから、美大を受ける予定で進路希望はいつも周辺の美大を手当たり次第書いてる。

 今は来週迫る展示会用の絵を書いていて。
 私は「秘められた思い」というモチーフで抽象画を書いてる。
 赤や黄色を潜ませた暗い感情が表面を覆うその絵はきっと、私の気持ち全部が溶け出して行くように。すんなりと筆は進んで。たまに力強く落とす純色の濃い色も、決意だったり、努力だったり、揺るがない気持ちだったり、全部を。全部を表現したくて。

「おー気合入ってるね、セレン。このへんめっちゃ綺麗」

 様子を見に来た美夕ちゃんのベリショくるくるの髪が私のキャンバスの前を横切って左上の方を指差して振り向いた。

「このへんはね、未来への思い。キラキラってさせたいの」

 まだちゃんとは描き込まれていないその説明をすれば、美夕ちゃんは悪戯に笑って見せて。

「セレンの未来はキラキラっていうかドキドキ!じゃないの?」

「ド、ドキドキ!?な、なな、なんで?」

「だってあんな王子様みたいな恋人…もーホントいいなぁ~」

 本気で羨ましがっているであろう美夕ちゃんは眉間に皺を寄せてこっちに不服を申し立ててきたけれど、私は「恋人って言っても形だけだよぉ」とだけ言ってはその顔のあまりの可愛らしさに吹き出して笑った。

 美夕ちゃんには、言ってない。

 私が本当は緑君の事好きだって。
 言えなかった。
 言ってしまったら、美夕ちゃん気を利かせて緑君に伝えてくれそうな気がして。
 でも私は。

 ちゃんと自分で、いつか。伝えたいから。
< 7 / 85 >

この作品をシェア

pagetop