もしも勇気が出たら君を抱きしめたい


初めて伊東の涙を見たあの日から、伊東は何度か僕の研究室にきて泣くようになった。

それは決まって彼氏と何かあったときで(何があったかはいつも教えてくれないが、おそらく喧嘩だろう)、何も言わずに涙をながすのを僕は向かいの席に座ってじっと見ていた。


その様子から察するに、その先輩とやらは、伊東のことをあまり大切にはしていないらしい。


この前九条に呼び止められて話したとき、少し耳にしたのだが、その先輩は高校にいるときから女の子と問題を起こすタイプの人だったらしい。


「伊東が大好きで、何回も告白してようやくオッケーもらって付き合ったから、別れたくないんやろうけど、俺からしたらあんな浮気者どこがいいん?って思いますけどね」


呆れたようにいった九条の言葉に、僕は苦笑いしかできなかった。



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