鬼系上司は甘えたがり。
 
居たたまれなくなった私は下唇をキュッと噛み締め、逃げるように主任のデスクから離れ、そのままの勢いで自分のデスクからコートとバッグを取り、腕に引っかけると、今にも零れ落ちそうな涙を必死に堪えながらドアに走る。


「え!? 薪ちゃん!?」


お手洗いから戻ったのだろう、ちょうどドアの付近で由里子とすれ違ったけれど、声をかける余裕もないまま彼女の横をすり抜ける。

何度も「薪ちゃん!?」と私を呼び止める由里子の声を聞きながら、けれど私はひたすら階段を下り、彼女の声が聞こえなくなるとようやく速度を落とし、踊り場にヘナヘナと座り込んだ。


「なんで……なんで……っ」


頭も心も混乱を極めている。

ハァハァと肩で大きく息をしながら、それでも何かの悪い冗談であって欲しいと切に願う私の心は、今にも張り裂けてしまいそうだ。

たった数時間で180度、態度が変わってしまうなんて、そんなの“はい分かりました”と納得できるわけもなく、また、ドッキリを仕掛けるにしても、いささか悪ふざけが過ぎている。


--今日、急に、自分から私を遠ざけなければいけない理由ができた……? 正午前の電話と、あのあからさまな渋面に関係がある……?
 
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