鬼系上司は甘えたがり。
 
それはともかく、ペンダントトップがホテルの中にも車の中にも無かったとなると、必然的に外で落としたことになり、結果的に奥平さんはアイスバーン状態の敷地内を当てもなくずっと探して下さっていたことになる。

そんな途方もない作業を、たかが仕事相手の私なんかのために1ヶ月も続けていたなんて……。


『ありがとうございます。すぐに引き取りに伺います。早速で恐縮ですが、待ち合わせ場所や時間を指定して頂けますでしょうか?』


驚きや、言葉では言い表せないほどの感謝の思い、未だ信じられないような気持ちなど、様々な感情が込み上げて指先が震える中、何度も誤入力をしながらも、なんとか返信を打つ。

すると、数十秒としないうちに電話が鳴る。


「も、もしもし!」

『渡瀬さん、お久しぶりです。奥平です』

「お久しぶりです。あの、ペンダントトップが見つかったって……どこにあったんですか?」


不躾だとは思いながらも、まず急き込んで聞いてしまったのはペンダントトップの在り処だ。

やっぱり固い雪の下から出てきたのだろうか。

そう思うと、居たたまれない気持ちになる。
 
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