鬼系上司は甘えたがり。
 
また、社用車の中に落ちているかもしれないという可能性についても、あの日、主任から一方的に拒絶されてから数日後、少し落ち着いたところで探したけれど、結局見つからず終いで。

主任との繋がりを証明するものはもうそれしかないんだ、だから絶対に見つける!と気張っていた気持ちも、冬が深まっていくにつれて、寒さとともに徐々に萎んでしまっていた。

最近では、塞ぎがちな気持ちに比例し、直径3センチにも満たないあんな小さなものが見つかるわけがない、と諦める気持ちのほうが大きくなっていて、唯一私の手元に残ったトップ不在のチェーンも、見ると必要以上に主任を思い出してしまうから引き出しの奥に封印している。


そんなときの奥平さんからのメールに、しばらく唖然としてしまったのは言うまでもない。

下界というのは、おそらく彼のジョークだろう。

この前、仕事でお会いしたとき、冗談交じりに『山にあるホテルの従業員なんて、冬はほとんど仙人みたいな生活ですよ。仕事のときは別ですけど、休みのたびに凍った道路をわざわざ走って街に遊びに出るなんて、そんなスリリングなこと、俺にはもうできません』なんて言っていたから、なるほど、今奥平さんは仙人から人間へ戻るところなのかもしれない。
 
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