鬼系上司は甘えたがり。
 
主任だけでは多賀野くんを本当の意味では助けてあげられていなかったかもしれない、だけど今は私もいる、現にこうして向き合っている。

多賀野くんの気持ちを動かせるなら今だ。


「……多賀野くん、今からだよ。今から3人で始めよう、始めてみよう。だって多賀野くん、このままの自分じゃダメだと思ってるから主任に仕事の紹介を頼んでるんでしょう? 主任だったらきっと自分に合う仕事を見つけてくれるって思ってるから、わざわざ会社を辞める原因を作ったこの人に会ってるんでしょう?」


そう言いながら、後ろの主任を振り仰ぐ。

目が合った主任はそれでも何も言わず黙ったままだけれど、その顔はどこかホッとしているような、だけど何を出しゃばったことをと怒っているような、そんなどっちつかずの顔だ。

こんな所まで来た挙げ句、こんな風に守られるとは思ってもいなかったのだろう、でもそんな顔さえ今はたまらなく愛おしく、力が漲る。

それからすぐに多賀野くんに向き直りニッコリと笑顔を作ると、彼は「……そ、んなわけ……」と言いながら表情に僅かに動揺の色を見せた。


「そうかな。私にはそう見えるよ」
 
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