鬼系上司は甘えたがり。
簡単にはいかないだろう。
多賀野くんの主張は尤もだ。
それでも、多賀野くん傷つけ、3年もの間苦しめ続けたのが主任や私なら、彼を助けてあげられるのもまた、主任や私ではないだろうか。
「これからは私も協力できる。多賀野くんが本当に心から楽しいと思える仕事を一緒に探そう」
大丈夫だから--その気持ちを込めて、書類に落としていた目をゆるゆるとこちらに向けた多賀野くんに“うん”と笑って大きく頷く。
辛抱するだけが正解じゃない。
どうしても頑張れないときだってあるし、気持ちが折れてしまったり、精神的に参ってしまうことだって、きっと誰にでもあるはずだ。
多賀野くんはあのとき、会社や仕事から逃げたのではなく、これ以上自分が壊れてしまう前にやむを得なく自衛策を講じたのだと思う。
そう考えたら、あのときの多賀野くんの選択が間違っているとは到底思えなかった。
すると。
「……渡瀬はその人のどこが好きなの……?」
「へっ!?」
「ここまで乗り込んできたってことは、つまりはそういうことだろ? 去年のクリスマスに街で偶然会ったときも2人だったし、付き合ってなかったら、わざわざ助けになんて来るはずないだろ、こんな毒舌鬼畜野郎なんて」