鬼系上司は甘えたがり。
要は、要領が悪く不器用。臆病。
だから、恋を取ったら仕事が疎かに、仕事を取ったら恋が疎かになるのが目に見えて分かっているから、もうしばらくは仕事をメインに頑張りつつ、週末はお手軽価格でときめきを買い、休みの日は日がな一日干物と化すのが、今のところの最良の選択なのではないかと思う。
たぶん、切り替えも下手なんだと思う。
よく上司の新田主任に『切り替えろボケェ!』と怒られるし、同期で同じフリーペーパー編集部門の麻井由里子にも『薪ちゃんめんどい』と綺麗な笑顔で毒を吐かれるので、恋愛面においてもそうである素質は十分持っているはずだ。
そんな何の役にも立たない素質なんていらないけど、世の中、いろんな人がいて当たり前。
鬼上司の新田主任然り、毒舌美人の由里子嬢然り、容量が悪く不器用臆病な私然り、いろんな人がいてこその“社会”なんだと思いたい。
……うう、なんか私、底辺だな。
まあいいや、今は映画を観よう。
ポップコーンを頬張りつつ、スクリーンに映し出されている映画に意識を集中させていく。
今日選んだ映画は『今期最高の甘ロマ』というキャッチコピーが付いている、御曹司とメイドの身分差が最大の障害であり胸を締めつけてやまない、ピュアラブストーリーだ。