鬼系上司は甘えたがり。
 
それからの約3週間は仕事を覚えることだけで精一杯で、金曜日の夜に一人、映画館で恋愛映画を観るという私の唯一の楽しみは、泣く泣く封印することになってしまった。

映画館に足を運ぶ暇があるなら寝るほうに使いたいというのが率直な気持ちで、そのおかげで私のお財布事情は月末になってもそれほど痛むことはなかったけれど、一緒に仕事を組むことになってさらに鬼になった主任と自身の仕事のトロさによって、心の痛み具合は凄まじい。


「オラ薪、いつまでちんたら仕事してやがる!火にくべて跡形もなく燃やすぞ!」

この3週間の間でコレを言われること数知れず。

以前から私を叱るときはお決まりになっていた台詞だったけれど、あの不意打ちキスの週末から明けて月曜日、午前中だけで10回言われた時点で、虚しくなって数えるのを諦めた。

分かっていたけど、仕事に私情は一切挟まない主任の鬼畜ぶりは凄まじいものがあり、昼休み、一緒にコンビニでお昼ご飯を調達した由里子嬢が無言でお菓子を買ってくれたほどだ。

うう……ありがとう、由里子。


毎月25日が発行日の『iroha』。

やっと11月号の校了が済み、これでやっと以前から言われていた文字起こしの作業に着手できると意気込んだのも束の間--。
 
< 60 / 257 >

この作品をシェア

pagetop