【ショート・ショート】コーヒー
『香りの記憶』
『香りの記憶』

 大学からの帰り、ばったりと同じ高校だった男友達に出会った。卒業後1,2年しか経っていなかったのに、男友達はかなり変わっていた。見た目は多少大人っぽくはなっていたが、変わったのはそこではなかった。感じが、雰囲気が見知らぬ人のようななっていたのだ。でも香りは、変わっていなかった。

 交通の不便なところに住んでいた彼は、小さなワンルームのアパートで一人暮らしをしていた。部屋は数回しか行ったことがなかったが、いつも物に溢れていた。洗濯物や雑誌、食器がのったソファベットと小さなテーブル。コミックとCDは棚や、小さなテレビの上にまで乱雑に置かれていた。たしか、床にも洗濯物が小山をつくっていた気がする。

 それが今は、別の━でもやはり高校生の時からので━今は唯一付き合いのある男友達の部屋にいる。
「おおざっぱな性格が部屋に出てた訳か」
 思い出しながら口にしていたようだ。台所でコーヒーをいれていた部屋の主が姿を現した。無論、両手にマグカップを持って。
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