オフィス・ラブ #3

夕方会社に戻ると、新庄さんからフォームのパスの貼ってあるメールが届いていた。

部門が違うため、本来なら入れないマーケのサーバへのアクセス権を開いておいたという報告があって。



『何時に終わる?』



短い一文が、添えられていた。

珍しい、社内のメールにこれを書いてくるなんて。


この問いかけはもう、私たちの間ではおなじみになっていて。

今日は車で来ている、ということだった。





「昼、すみませんでした」

「まったくだ」



煙草を取り出しながら、不機嫌に言う。


走りだしたばかりの車は、温まりきった車内を冷やすエアコンの音がうるさい。

週末になかなか時間がとれないので、最近は、こうして送ってもらうことで、会う機会を確保していた。


毎回コインパーキングに入れていたら、それこそとんでもない金額になってしまうので、7月頃から、新庄さんは会社の近くに駐車場を借りていた。

私も負担すると申し出たのだけれど、新庄さんは少し考えて。



「なら、ガソリン代を頼む」



そう言った。

それじゃ、私のほうが軽すぎると思ったんだけど、よく考えたら、ハイオクでこの距離を頻繁に走っているのであれば、月々のガソリン代は、たぶん駐車場代の半分なんて、軽く超える。

振りこみなどの手間を考えれば、一緒にいる時に給油して、それを私が負担するというのは、確かに合理的だった。





「あげたいもの、か」



煙草を挟んだ指でステアを握っていた新庄さんが、思い出したようにつぶやく。



「別に、いいですよ、思いつかなければ」

「いや」



なんだろう、彼なりに、あの説に何か、感じるところがあったんだろうか。

いいんですよ、ともう一度言っても、新庄さんは、まだ考えている様子だった。



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