オフィス・ラブ #3


「暑い」



暑い、ともう一度言う。

何度だって、自然と口から出てくる。


暑い!



「きゃあっ!」



突然、背後から強烈な水の噴射を浴びて、思わず声を上げた。



「何度も言うな。わかってる」



ホースを私に向けた新庄さんが、洗車用のスポンジを投げてよこす。



「暑いとか寒いとか口に出すのは、季節への礼儀なんですよ」

「無礼でいいから、黙ってろ」



スポンジを受けとりながら口ごたえしてみると、ぴしゃりと返された。

いいじゃないか、実際、暑いんだから。



新庄さんのマンションには、裏通りに面した場所に、1台ぶんの洗車場がある。

というより、それがあるから、このマンションを選んだらしい。


少し雲が張っていて、日差しの柔らかい今日、部屋でくつろいでいたところ、突然新庄さんが、車を洗う、と言い出した。

面白そうだから、同意したんだけど。


いくら雲が少しあるとはいえ、真昼間の屋外は、とんでもなく暑い。

汚れてもいいように、新庄さんのTシャツを借りていた私は、洗う前からびしょ濡れになったそれを、ぎゅっと絞った。

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