オフィス・ラブ #3
その次長は、形ばかりのポジションとして就任したものの、ありもしない権力を振りかざすタイプの人だったらしく、管理職からはすぐに総スカンをくらったらしい。

そこで目をつけられたのが、新部署の最若手である新庄さんと、同年代の他数名で。

けれど精鋭部隊の彼らがそう簡単になびくはずもなく。


丸めこもうとした若造たちにも無視された次長は、それを恨みに思い。



「コネを最大限利用して、懲罰人事みたいなことをしようとしたんですよ、このご時世に」

「他に、あしらいかた、なかったのかな」

「新庄さんは、相当慎重に、うまく立ち回っていたらしいです。けど、あの人は、良くも悪くも、目立つから」



全然知らなかった。

業務と関係のないところで、そんなくだらないことに心を砕かなきゃいけなかったなんて。

あの人にとって、どれだけ苛だたしく、ストレスだっただろう。



「他の数人は?」

「今月付けで、マーケユニット内で異動してます。一番危なかったのが、新庄さんだったんで」



冷却期間として、出向という隠れ蓑を使ったのか。

助かったと、思うべきなんだろうか。



「これで、次長が忘れてくれればいいですが、根に持たれたら、厄介ですよ」

「厄介って…」

「実績を残せなきゃ、当然戻ってきてからの居場所はないでしょうし」



まあ、あの人に限ってそんなことありえないと思いますけど、と続ける。



「むしろ怖いのが、実績を上げた時です。それを理由に、向こうへの転籍だってあり得る」



転籍。



私はもう、頼んだアイスティを飲む力も、残っていなかった。



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