オフィス・ラブ #3


「面白い」



クライアントの宣伝部長が、感心したように言う。

会議室にいた他の宣伝担当者たちも、興味深そうに、スクリーンに映し出されたPCの画面に見入っていた。



「弊社内では一年ほど前から稼働していたものが、ようやくご提供できるまでになりました」



プロジェクタの横に立っていた堤さんがそうまとめると、あちこちから具体的な質問の声が上がる。



「御社に任せてる案件は、そちらで入れてもらえる?」

「もちろん。ご提案時には、すでに入力した状態でお見せします」

「バルク買いした枠は、どう入れたら」

「見込値をまず入れ、露出後に実際値に修正します」



見込値を吐き出すサブツールも、搭載していますので。


機能に関することも含めた、すべての質問に、さらりと答える。

いつの間に、そこまで熟知していたのか。

わざわざアドテクに来てもらう必要はないよ、と笑っていた意味が、わかった。


すげーなあ、と私の隣にいる林田さんがつぶやく。

確かにすごい。


上司としてなら、たぶん、新庄さんより正統派だ。

問答無用の魅力で周囲を惚れこませてしまう新庄さんに対して、堤さんの統率は、理詰めでそつがない。

けど、クライアントの無茶にも笑ってつきあったり、時折びっくりするほど破天荒になったりする面白味もあって。


もともとつかみどころのない人だけど、ここまで来ると、変幻自在と言いたくなる。



「当面は、堤がこのシステムの窓口となります。まずは共有していただき、機能をご実感ください」



課長がそう締めて、新システムのお披露目会は終わった。

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