浮気者上司!?に溺愛されてます
際どく危険な同棲宣言
終業時間後すぐ、エレベーターを待つ人は、私の他にいなかった。
到着したエレベーターも無人で、私は一人で乗り込んでグランドフロアに向かう。


一瞬の浮遊感の後、エレベーターが下降し始めた。
気圧の変化を感じながら、地上が近づくのを意識する。
そして、徐々に胸がドキドキし始めて、自分で思っているよりも緊張してることを自覚した。


グランドフロアに着いて足を踏み出しながら、グッと顔を上げる。
そうすることで、少しでも強気を保ちたかった。


IDカードを翳してエントランスを出て、グルッと辺りを見渡す。
私の目に飛び込む風景は、朝も昼も夜も、いつもそれほど大差はない。
オフィスビルらしく、せかせかしたオフィスアワーが流れ続けている。


そんな中で、私はすぐその女性に目を止めた。
この間、この同じ場所で恭介と二人でいた、あのショートヘアの美人。


やっぱりこの人は恭介の奥さんだったんだ、と確信して、一度大きく息を吸い込んだ。
緩やかに速度を上げる鼓動を意識しながら、意を決して大きく一歩踏み出す。


だいぶ距離を詰めてから、紫乃さんはようやく私に気がついて、座っていたソファから立ち上がった。
お互いに姿形を見知っていても、これだけ接近してまじまじと見つめるのは初めてだ。


紫乃さんは私が迷わず真っすぐ向かって来たことにほんの少し不審な表情を浮かべたけど、正面から相対した時には、余裕そうな穏やかな視線を私に向けていた。
< 155 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop